2025年の大河ドラマ『べらぼう』、ますます盛り上がってきましたね。
蔦屋重三郎が日本橋に進出しようという過程でキーとなっている、老舗の地本問屋「丸屋」。
今回は、
- 蔦屋重三郎が日本橋進出を果たすうえで、なぜ“丸屋”がカギを握っていたの?
- 「丸屋小兵衛」は実在した?その店はどこにあった?
- これまでの放送で「丸屋」がどう描かれてきたのか?
についてご紹介します。
日本橋の地に実在した「丸屋」とは?
NHK大河ドラマ『べらぼう』に登場する「丸屋」は、蔦屋重三郎が出版界の中心・日本橋に進出するうえで重要な鍵となる存在として描かれています。
では、この「丸屋」は実在したのか?そして、どんな役割を担っていたのか?ここでは、史実に基づいてその実像をひも解いていきます。
丸屋小兵衛とは?
「丸屋小兵衛(まるやこへえ)」は、江戸時代に実在した地本問屋で、江戸の出版文化を支える一員として知られていました。
通称「丸小」と呼ばれ、当初は大伝馬町に店舗を構えていたとされますが、のちに出版業の拠点として知られる通油町へと移転したようです。
天明3年(1783年)、この丸屋の店舗と営業権(いわゆる「株」)を買い取ったのが蔦屋重三郎でした。
重三郎はここに「耕書堂」と名付けた新たな店を構え、地本問屋の仲間入りを果たします。つまり、「丸屋」は蔦屋重三郎にとって、吉原から一歩踏み出し、日本橋の出版街に本格参入するための大切な足がかりだったのです。
地本問屋とは?
丸屋が属していた「地本問屋」とは、草双紙や浮世絵、黄表紙といった、主に庶民向けの娯楽出版物を扱う問屋です。現代でたとえるなら、大衆文化を発信する出版社と書店流通の役割を兼ねたような存在といえるでしょう。
地本問屋は、知識層向けの書籍を扱う「書物問屋」とは一線を画し、物語や風刺、恋愛ものなど、気軽に楽しめる読み物を提供することで江戸の町人文化を支えていました。
出版物の企画から印刷・流通までを手がけ、江戸の人々に“娯楽”を届けていたのです。
⇒ 地本問屋と書物問屋の違いとは?蔦屋重三郎が活躍した出版文化と株仲間制度
なぜ日本橋・通油町が出版の中心地?
丸屋が店を構えていた日本橋・通油町は、当時の江戸における出版業の中心地でした。
交通の便が良く、商人や旅人が行き交うこの地には、多くの地本問屋や書肆が集まり、出版・販売の拠点として大いに栄えていました。
鶴屋喜右衛門、村田屋治郎兵衛といった有力な問屋もこの一角に店を構えており、競争も激しかったといいます。
そんななか、蔦屋重三郎が丸屋を手に入れたことで、通油町の一角に新たな風が吹き込まれることとなりました。

次は、蔦屋重三郎が「丸屋」を買い取った理由とその戦略を見ていきましょう!
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蔦屋重三郎が日本橋の丸屋を買収した理由
『べらぼう』の中で、蔦屋重三郎が“丸屋”の名を口にしたとき、ピンときた方も多いのではないでしょうか。
そう、この丸屋こそが、重三郎にとって“吉原の出版人”から“江戸の出版王”へと飛躍するための切り札だったのです。
吉原細見で名を上げた蔦重が見据えた「次の一手」
吉原の情報誌『吉原細見』で一躍名を上げた若き蔦重。艶っぽくて、ちょっと風刺の効いた黄表紙や草双紙を次々とヒットさせ、吉原では“名物問屋”として知られる存在になっていきます。
しかし、彼はそこで満足しませんでした。
「どうせやるなら、江戸のど真ん中で勝負したい」
そう見据えたのが、日本橋・通油町。そこに、老舗の出版問屋「丸屋」が店を構えていたのです。
丸屋の“株”を手に入れる意味とは?
重三郎が狙ったのは、ただの物件ではありません。
江戸の出版界では、「株」と呼ばれる営業権を持たない者は、一人前として扱われない時代。
この“株”を持っていれば、問屋仲間の一員として正式に認められ、出版物の発行・流通のルートにも参加できるようになります。
つまり、「丸屋の店と株を丸ごと買う」というのは、“蔦屋重三郎”という名を江戸の出版業界に正式登録するようなもの。これがあってはじめて、重三郎は“吉原のにいちゃん”から、“本格派の版元”として一歩を踏み出せたのです。
実在の記録に残る「丸屋買収」のタイミングと背景
この買収劇が起こったのは、天明3年(1783年)9月。
史料によれば、蔦屋重三郎はこのとき、丸屋小兵衛の店舗と“株”を買い取り、新たに「耕書堂」という屋号で営業を開始したと記録されています。
これは単なる物件移転ではなく、蔦屋ブランドのステージが一段階アップした瞬間。
場所は吉原から日本橋へ、扱うジャンルもますます多彩に。
このあと、喜多川歌麿、山東京伝、十返舎一九など、時代の寵児たちを次々と世に送り出していく布石が、ここで打たれていたのです。
重三郎の目には、すでに“吉原”の外の景色が見えていた。
丸屋の買収は、まさにその野望を形にするための第一手だったのですね。
続いては、この買収劇がドラマ『べらぼう』でどのように描かれていくのか、「てい」というキャラクターとの関係にも注目しながら見ていきましょう。
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べらぼうで描かれる日本橋丸屋とていの物語
『べらぼう』第24話では、ついに重三郎が日本橋の老舗「丸屋」を手に入れる瞬間が描かれます。一見、急展開のように見えますが、実はここに至るまでには、ドラマの随所にしっかりと伏線が張られていました。
「丸小」「丸屋小兵衛」といった名前がぽつりぽつりと登場し、そして重三郎が動くたびに揺れる出版界。その裏で着々と進んでいた“世代交代”の物語が、ついに表舞台に現れます。
べらぼう第6話:「青本といえば、うちか丸小か」で名前が登場
まず名前が出てきたのは、第6話。
「青本といえば、うちか丸小か」
――そう語られたセリフに、「丸小」の存在感がじわりとにじみ出ます。
この“丸小”とは、もちろん丸屋小兵衛のこと。草双紙や黄表紙といった地本のジャンルで、すでに名の通った存在であることがさりげなく示されています。
べらぼう第17話:「丸屋小兵衛」が明確に描かれた買収の伏線
第17話では、ついに“丸屋小兵衛”の名前が本格登場。
蔦重が地方市場からの往来物を江戸に流し込み、出版の勢力図を塗り替えようとする動きに、真っ先に反応したのが、既存の大手・丸屋でした。
この回では、吉原から飛び出した蔦重の商才と、それに脅かされる老舗問屋の姿が対照的に描かれ、後の買収劇に向けた空気が一気に高まります。
「丸屋が危ない」
そんなムードが、この回からじわじわと漂い始めたのです。
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べらぼう第23〜24話:丸屋の凋落と、ていの登場が示すドラマ展開
第23話では、ついに「丸屋が店を手放すらしい」という話が浮上。
それまで誇りをもって日本橋に店を構えていた名門・丸屋が、重三郎の勢いに押されて崩れていく。そして第24話、丸屋の娘・てい(演:橋本愛)が登場します。
ていは、ひと目で“できる女将”とわかる芯の強さを持ち、蔦重の勢いにもまったく引かない存在感を放ちます。この出会いが、物語に新たな人間ドラマを加えると同時に、老舗の誇りと新興の革新がぶつかり合う象徴的な構図を形づくるのです。
“てい”は史実の人物?創作キャラ?事実との違いを解説
第24話から登場する「てい」(橋本愛さん)は、重三郎と激しくぶつかりながらも、出版界の動向に鋭い目を持つ印象的なキャラクター。ではこの“てい”という人物、実在したのでしょうか?
この点については、ドラマの演出と史実の間に少し差があります。
実際の蔦屋重三郎には妻がいたとされるものの、名前や出自については資料が乏しく、「てい」という人物像がそのまま史実に基づいているわけではありません。
詳しくは、以下の関連記事で解説しています:
👉 蔦屋重三郎の妻『てい』は実在した?史実とドラマ『べらぼう』の違いを解説!
重三郎とていの関係性、史実上の妻の手がかり、そしてドラマならではの脚色ポイントまで掘り下げていますので、あわせてご覧ください。
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日本橋・丸屋が伝えるもの
江戸出版界の中心、日本橋・通油町。そこに実在した「丸屋小兵衛の店」は、蔦屋重三郎という革新者の登場によって表舞台から姿を消すことになります。
しかし、丸屋が果たした役割は“古きものの終焉”ではなく、“新しきものの礎”として、今も静かに語り継がれているのです。
実在した「丸屋小兵衛の店」はどう語り継がれているか
丸屋小兵衛は、紅摺絵や草双紙といった娯楽出版を担っていた地本問屋の草分け的存在でした。
店舗を構えていたのは、今でいう中央区日本橋大伝馬町付近。史料によれば、1783年(天明3年)に蔦屋重三郎がこの店と“株”を買い取り、「耕書堂」として再スタートを切ったことが明記されています。
この一手が、蔦屋の快進撃の始まりでした。つまり丸屋の名は、「終わった問屋」ではなく、「出版革命のバトンを渡した問屋」として歴史に残っているのです。
日本橋の出版史における丸屋の役割とは?
通油町が“出版銀座”と呼ばれた時代、そこに店を構えることは出版社としてのステータスでもありました。
丸屋はその一角で長年商いを続け、多くの庶民に読み物を届けてきた存在。蔦屋が登場する以前、地本問屋の基盤を支えていたのが、まさに丸屋のような老舗たちでした。
蔦屋の成功も、ゼロから生まれたものではありません。旧来の問屋が築いてきたシステム、信用、流通――それらがあったからこそ、新しいビジネスモデルが可能になったのですね。
蔦屋重三郎の成功は、丸屋なくして語れない
蔦屋重三郎が通油町へ進出できたのは、丸屋が持っていた「株」と「店舗」、つまり“名実ともに一流の出版人として認められるための鍵”を手にしたから。
吉原の風来坊が、中央に打って出るために選んだのが丸屋であったという点に、重三郎の戦略眼の鋭さと、丸屋という老舗の重みが重なって見えてきます。
ドラマ『べらぼう』では、重三郎の成功とともに、丸屋の衰退も丁寧に描かれます。そして、その“失われる側”に名を刻むのが、ていという女性の存在。
歴史の転換点には、必ず光と影があり、丸屋はまさにその影の部分を静かに担った存在でした。
以上、今回は日本橋に実在した丸屋小兵衛の店と、蔦屋重三郎によるその買収劇、そしてドラマ『べらぼう』で描かれる人間模様についてお伝えしました。
老舗・丸屋と新興の蔦屋。二つの出版人の交差が、時代の転換点を物語っていましたね。そして、その歴史のうねりを“てい”という女性の視点から描くのが、ドラマ『べらぼう』の魅力でもあります。
重三郎の快進撃の裏にある、静かに消えゆく者たちの想い――
今後の物語が、どのようにその光と影を描き出していくのか、引き続き目が離せません。
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