国民的なキャラクター「アンパンマン」を生み出したやなせたかしさん。
子どもから大人までを魅了する作品を数多く手掛けてきましたが、その出発点となったのが「ボオ氏」という一風変わった漫画です。
この記事では、
- 「ボオ氏」とはどんな漫画なのか
- 「ボオ氏」はどのように誕生したのか
- 「ポエムさん」との関係
についてご紹介します。
やなせたかしの代表作「ボオ氏」はどんな漫画?
シンプルながら深い人間観察が込められた「ボオ氏」は、やなせたかしさんの作家人生に大きな転機をもたらした作品です。
どんな漫画なのか、さっそくみていきましょう。
「ボオ氏」とは?セリフのないパントマイム漫画
ボオ氏
めちゃくちゃ芸術性高い
普遍的な美しさがある pic.twitter.com/lNc6qIvhU2— RBUX (@RbuxBook) August 26, 2025
「ボオ氏」は1960年代にやなせたかしさんが描いた四コマ漫画シリーズで、1967年に「週刊朝日漫画賞」を受賞しました。
大きな特徴は、セリフがまったくないこと。
キャラクターの仕草や表情だけで物語が展開していく、いわば“パントマイム漫画”です。
当時の漫画はセリフや説明に頼るスタイルが主流でした。
その中で、やなせたかしさんは一切の言葉を削ぎ落とし、誰もが直感的に理解できる表現を試みたのです。
なぜ「ボオ氏」が評価されたのか
「ボオ氏」が注目を集めたのは、その普遍性にありました。
セリフがないため、年齢や国籍に関係なく、誰でも理解できる。
笑いや悲しみ、驚きといった人間の根本的な感情をシンプルに描き出す力が評価されたのです。
この作品によって、やなせたかしさんは漫画家として広く知られる存在になりました。
そして後年の『アンパンマン』や詩とイラストを組み合わせた創作にも、この「誰にでも伝わる表現を追求する姿勢」が生かされています。
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やなせたかし「ボオ氏」が生まれた背景ときっかけ
やなせたかしさんが「ボオ氏」という作品を生み出したのは、華やかな成功とは程遠い、葛藤と模索の時期でした。「ボオ氏」が生まれた背景についてみていきましょう。
苦しい時期に芽生えた挑戦心
いずみたくとの出会いをきっかけに作詞の仕事に力を入れ始めていたやなせたかしさんでしたが、あくまでも本業は漫画家。ところが漫画の分野ではなかなか評価につながらず、苦しい時期が続いていました。
当時の心境を、やなせたかしさんはこう振り返っています。
「漫画集団世界旅行というのにも誘いの声さえかからなかった。自分が完全に無視されている、存在していないとおなじ、ということが身にしみた。ぼくより十年も二十年も年齢の下の連中が花形としてもてはやされているのに、湯呑み茶碗の絵を描いたりしてごまかしながら生きているのはみじめだった」
仲間の漫画家が華やかに活躍していく姿を横目に、自分は忘れられた存在のように感じていたのです。
この悔しさが、やなせたかしさんを新たな挑戦へと駆り立てました。
⇒ あんぱん|独創漫画派の実在モデルは独立漫画派?メンバーは誰?やなせたかしとの関係も
懸賞漫画への応募を決意
そんな折、『週刊朝日』が「半年連載・百万円懸賞漫画」を募集していることを知ります。
周囲の売れっ子漫画家が世界旅行に出ている間に、自分はこのチャンスに賭けようと決意しました。
ただし、当時すでにプロとして活動していたやなせたかしさんにとって、応募するのは勇気のいることでした。
「募集要項はプロアマ不問だったが、ぼくも一応プロになっていたから、応募して落ちたら恥かしいと思って心がひるんだ。もし三位か佳作に名前が出ると物笑いの種になりはしないかと恐れた」
それでも「どうしても一等を取りたい」と覚悟を決め、逆光に立ち帽子を深くかぶった「ミスター・ボオ」というキャラクターを考案。
24本ものパントマイム漫画を描き上げました。
グランプリ受賞と周囲の喜び
結果は見事にグランプリ。
100万円の懸賞金を手にする大きな成果となりました。
応募のことを妻にも黙っていたやなせたかしさんは、受賞を打ち明けるときにこう話したそうです。
「どうも『週刊朝日』の懸賞漫画に一等で入選したらしいが、嘘かもしれないから喜んじゃいけない」
妻は「あなたが喜ぶなというから、喜ばないように我慢しているうちに、あんまりうれしくなくなった。でもおめでとう」と返したとか。なんともユーモラスな夫婦のやり取りが伝わってきます。
また、親交のあった作曲家・いずみたくも、この挑戦を心から称えました。
「やなせさんは立派なプロの漫画家なのに、投書漫画に応募する勇気がある。ぼくは感動してしまった」
周囲に支えられながら勝ち取ったこの受賞は、やなせたかしさんにとって漫画家としての存在感を取り戻す大きな転機となり、やがて「ボオ氏」が代表作として語られるようになったのですね。
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やなせたかし作・ボオ氏とポエムさんの関係
さて、やなせたかしさんが作り出した「ポエムさん」というキャラクターがいます。
ちょっと見た目がボオ氏に似ているのです。
アニメに登場した新しい存在でありながら、「やなせたかしさん自身の投影では?」とか「ボオ氏に似ている」といった声もあり、ファンの間で関心を集めています。
ここでは、その正体と位置づけを整理してみましょう。
アニメ『アンパンマン』に登場したポエムさん
あの最後にでできた人、原作の絵本の方に出てなかった?
そして、ポエムさんはきっとやなせたかし先生だったのかなってあと今日、最終回なの?って思うほど声優陣も凄かった#アンパンマン pic.twitter.com/ifnF26bI5c
— cocoro (@coco_umi) October 6, 2023
「ポエムさん」が初めて登場したのは、2023年10月6日に放送された『それいけ!アンパンマン』第1631話「ジャムおじさんとアンパンマン」(35周年記念エピソード)です。
メルヘンチックな雰囲気をまとったポエムさんは、「なんのために生まれて、なにをして生きるのか?」と問いかけるキャラクターとして描かれ、作品全体に哲学的で詩的な深みを与えました。
そのシンプルな姿と優しい口調は視聴者の心をとらえ、放送直後からSNSでも話題になりました。
ポエムさんはやなせたかし自身?
ポエムさんの存在については、「これはやなせたかし本人を映しているのではないか」という見方もあります。
生きる意味や人生の価値を問いかける姿は、戦争体験を経て「正義とはなにか」「人を救うとはどういうことか」を考え続けたやなせたかしさんの人生観と重なるからです。
ただし、公式に「やなせたかし本人である」と明言されているわけではなく、あくまでファンや視聴者の解釈にとどまります。
それでも、このように感じられるほど「ポエムさん」がやなせ作品の核心を体現していることは確かでしょう。
ポエムさんとボオ氏の関係
また、「ポエムさんの姿が、やなせたかしさんの初期作品『ボオ氏』に似ている」という声もあります。
「ボオ氏」は1960年代に発表されたセリフのないパントマイム漫画で、逆光の中で帽子を深くかぶり、顔が見えない人物が主人公でした。
一方のポエムさんも、シンプルで匿名的な存在感をもち、言葉ではなく雰囲気や詩的な発言で心を揺さぶります。
両者に直接の関係は確認されていませんが、「誰にでも共感できる匿名的な存在」「言葉より感情を伝える表現」という共通点は明らかです。
つまり、ポエムさんは『ボオ氏』と同じ表現の流れにある“遠い親戚”のようなキャラクターといえるかもしれませんね。
以上、今回は「やなせたかしのボオ氏」の紹介と「ポエムさん」との関係についてお伝えしました。
ボオ氏は、セリフのないパントマイム漫画として1960年代に登場し、やなせたかしさんを漫画家として世に知らしめた作品です。
一方のポエムさんは、詩とイラストを組み合わせたキャラクターで、やなせたかしさんの人生観や哲学を象徴する存在となりました。
直接的なシリーズ関係はありませんが、どちらも「普遍的な感情をシンプルに表現する」というやなせたかしさんの根本思想から生まれたもの。
アンパンマンのような国民的ヒーローの背景には、こうした初期作品から培われた創作の土壌があったことを知ると、より一層やなせ作品が味わい深く感じられるのではないでしょうか。
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