朝ドラ「ばけばけ」で岡部たかしさんが演じる司之介(ヒロイン・トキの父親)。
その実在モデルは、松江藩士の家に生まれた稲垣金十郎と考えられます。
善良で人の良い父親でしたが、時代の荒波に翻弄され、商売の失敗や裁判を経て家は没落しました。そんな金十郎の人生は、主人公セツの運命とも深く結びついています。
この記事では
- 稲垣金十郎という実在モデルの人物像
- 士族の商法と没落の経緯
- ばけばけでトキの父・司之介を演じる岡部たかしさんについて
についてお伝えします。(一部ネタバレがありますのでご注意ください)
ばけばけ父親・司之介の実在モデル・稲垣金十郎とは?
ばけばけで岡部たかしさんが演じる父親・松野司之介の実在モデルとされる稲垣金十郎(いながき きんじゅうろう)は、松江藩に仕えた士族の家に生まれました。
のちに小泉セツ(『ばけばけ』のヒロイン・トキのモデル)の養父となり、小泉セツの人生に大きな影響を与えた人物です。
若くして養女を迎えながらも、時代の波に翻弄されていく姿は「士族の没落」を象徴する存在でもありました。
松江藩の士族出身
金十郎は1832年に松江藩士の家に生まれました。
家格は「並士」と呼ばれる中堅の立場で、禄高は100石ほど。武士としては決して高い身分ではありませんが、家来を2人ほど抱えるだけの安定した暮らしを送っていたといいます。
幕末の動乱期には京都の警備に従事し、鳥羽・伏見の戦いにも加わりました。緊張感漂う時代でしたが、金十郎自身はあまり肩肘を張らず、気さくな一面をのぞかせていたようです。
京都警備や鳥羽・伏見の戦いに参加
当時の証言によれば、金十郎は京都の警備の任についていたころでも、家来に好物の菓子を買いに行かせるなど、飄々とした人物だったと伝えられています。
戦の体験も、子どもたちに何度も語って聞かせるほどで、「お話好きな養父」という印象が残されています。
ある伝記では、金十郎について
「いたって気のいい善良な侍であった。王政復古の大政変を前にして、京都が緊迫した空気に包まれていた時に、京都警備の任にありながら、連日のように烏丸通りに家来を遣って、好物の菓子を買わせたり、後々まで、鳥羽・伏見の戦いをおもしろおかしく子供たちに語り聞かせるといった、好人物だったものである。」
(出典:『八雲の妻 小泉セツの生涯』)
と記されており、明るい性格で人に慕われやすかったことがうかがえます。
セツを養女に迎えた若き父親
稲垣金十郎は26歳のとき、親戚筋にあたる小泉家から生まれて間もないセツを養女として迎えました。
一般に「養父」と聞くと年配の男性を想像しがちですが、金十郎はまだ若く、妻のトミも2歳年下。
両親も健在の家庭に、待望の子どもとしてセツは迎え入れられたのです。
金十郎とトミ夫婦はセツを心からかわいがり、大切に育てました。その姿は「子ども好きで人の良い父」として、多くの記録に残されています。
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ばけばけ父の実在モデル・稲垣金十郎はどんな詐欺にあった?
明治維新を迎え、武士の暮らしは大きく変わりました。
稲垣金十郎も例外ではなく、家の収入であった家禄は大幅に削られます。
もとの100石が32石へと減らされ、従来の生活を維持することは困難になりました。武士の家来や奉公人を手放し、家宝を売って食いつなぐしかなかったのです。
家禄奉還と「士族の商法」
政府は士族に就業の道を開くため、家禄を返上する代わりに6年分の支給額をまとめて渡す政策をとりました。
これを元手に多くの元武士が商売を始めましたが、慣れない経営で失敗する例が後を絶ちません。こうした事例は「士族の商法」と呼ばれ、全国で数多くの士族が没落していきました。
金十郎もこの制度を利用して事業に乗り出しました。しかし、生来の人の良さが災いし、詐欺にあって資金を失ってしまいます。屋敷までも手放さざるを得ず、家族は暮らしの基盤を失いました。
詐欺と裁判に翻弄される
父・金十郎が関わったのは、借金に苦しむ知人の土地や山林を名義上引き受けるという話でした。
ところがその相手は、所有権を移した後も自分のもののように伐採を続け、逆に「金十郎が勝手に契約書を作った」と訴えたのです。
のちの裁判で虚偽告訴と盗伐が認められ、最終的に金十郎は無罪とされました。しかし判決までには時間と費用がかかり、結果として財産のほとんどを裁判費用に費やしてしまいます。
孫の小泉一雄さんは、後年の著書で
「善良だった祖父は悪辣な者にかかり、財産をすべて失った」
と記しており、その無念さが伝わってきます。
家族にのしかかる重荷
事業の失敗と裁判の出費により、稲垣家の生活は困窮しました。
セツは勉学を続けることができず、小学校を中途でやめて働きに出ることになります。
さらに親族の高浜家まで同居するほど家計は苦しくなり、稲垣家はまさに「士族の没落」を体現する家となっていきました。
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ばけばけ父のモデル・稲垣金十郎の晩年
数々の困難を経て、稲垣家はかつての武士の面影を失っていきます。
しかし金十郎は、善良な人柄ゆえに家族や周囲から慕われ続けます。晩年には、養女セツの再婚先である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)のもとに身を寄せ、一家と共に暮らすこととなりました。
小泉八雲一家との同居
セツが八雲と結婚したのち、金十郎はその生活を支えるように行動を共にしました。
明治期の松江で、八雲が教師として活動していた頃には、家族と同じ屋根の下で暮らし、孫たちとも日々を過ごしたと伝えられています。
元武士としての威厳というより、子ども好きな「優しいおじいさん」としての存在感を放っていたことでしょう。
胃潰瘍での死
1900年11月19日、金十郎は胃潰瘍のため68歳で亡くなります。
幕末の動乱を経験し、明治の荒波に翻弄され、詐欺や裁判にまで巻き込まれたその人生は、まさに激動の時代を生き抜いた武士の縮図でした。
財産を失った金十郎でしたが、善良さと誠実さは最後まで変わりませんでした。
その人柄は、養女セツや孫の小泉一雄の証言にも色濃く残されており、「覇気には乏しいが、気のいい善人」という評価に集約されます。
没
落士族の現実を象徴する一方で、家族から深く慕われた存在——それが稲垣金十郎の晩年の姿でした。
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ばけばけ父・司之介役は岡部たかしさん
トキの父・司之介を演じるのは、いま注目の実力派俳優・岡部たかしさん。
温かみのある雰囲気と、時にユーモラス、時にシリアスな表情を自在に操る演技力で、朝ドラや話題作にひっぱりだこの存在です。
岡部たかしさんのプロフィール
- 1972年6月22日生まれ
- 和歌山県出身
- 身長175cm
- 血液型はA型。
- 現在は芸能事務所クリオネに所属
岡部たかしさんは、舞台からキャリアをスタートし、劇団「東京乾電池」で活動。
その後は舞台公演に数多く出演し、やがてテレビや映画でも幅広く活躍するようになりました。
近年は朝ドラ「ひよっこ」「なつぞら」「エール」「ブギウギ」「虎に翼」に出演し、その存在感を多くの視聴者に印象づけていますね。
代表作と魅力
岡部たかしさんは、ドラマでは「エルピス」「虎に翼」など話題作にも登場。
重厚な人間ドラマからちょっとクセのある役柄まで、作品ごとに全く違った顔を見せる演技派として知られています。
舞台では自らユニット「切実」を立ち上げ、演出にも挑戦。
俳優としての表現力を広げながら、エンタメの世界に奥行きを加えてきました。
司之介と重なる部分
「気のいい善人」だったと伝わるばけばけ司之介実在モデル・稲垣金十郎。松江藩士として生まれながらも時代の荒波に翻弄され、詐欺や裁判で家を失った善良な人物でした。
その人柄は、岡部たかしさんの柔らかく自然体な演技とぴったり重なります。
朝ドラばけばけでは、うさぎ商売で詐欺に遭いそうですが、そんな商売に夢をかけるお人よしな父を、岡部たかしさんがどんな空気感で演じるのか。
今後の展開が楽しみですね。