朝ドラ『あんぱん』第22週には、やなせたかしさんの代表作のひとつ『やさしいライオン』が登場しますね。
アンパンマン誕生の原点ともいえるこの物語は、犬に育てられたライオン・ブルブルと育ての母ムクムクとの絆を描いた、切なくも温かいお話です。
この記事では
- 『やさしいライオン』の作品紹介
- 誕生の背景と制作エピソード
- あらすじとラストシーン
についてお伝えします。
やなせたかし作「やさしいライオン」とは?ラジオドラマから始まった物語
「やさしいライオン」は、やなせたかしさんが絵本作家として世に送り出した最初の作品です。
犬に育てられたライオン・ブルブルと育ての母ムクムクとの絆を描き、切なさと温かさが共存する物語として長く読み継がれています。
やなせたかしさん自身も
「この作品がなければアンパンマンも絵本化されなかった」
と振り返っており、創作活動における大きな転機となった一冊です。
「困っている人に手を差し伸べる」というアンパンマンの正義の思想は、この物語の中にすでに芽生えていたともいわれています。
コント作品がきっかけでラジオドラマに
創作の発端は、やなせたかしさんが新聞で読んだ「ドイツの動物園で犬がライオンを育てた」という実話記事でした。
やなせたかしさんは、「犬に育てられたライオン」というアイデアを短いコントとしてまとめたといいます。
その後、文化放送のラジオドラマのシナリオ依頼を受けた際、急な執筆依頼に応えるため、このコントを30分のドラマへと急遽発展させました。
ナレーションは久里千春さんと増山江威子さんが担当し、作曲は磯部俶さん、歌唱はボニージャックスによる構成で放送されたと語っています。
1967年に文化放送で放送されたこのラジオドラマが、『やさしいライオン』の正式な物語として誕生した瞬間でした。
絵本化・アニメ化へ発展
ラジオドラマが放送されると、評判が良かったため、フレーベル館の「トッパンのおはなしえほん」シリーズ(後の「キンダーおはなしえほん」シリーズ)の一冊として、1969年に絵本版が刊行されました 。
その後、1975年以降に改訂版が出たり、紙芝居として展開されたりするなど、形を変えながら広がりを見せていきます 。
さらに、この作品はアニメ映画にもなりました。
虫プロダクションが制作を担当し、やなせたかしさん自身が原作・脚本・演出に関わる形で映像化されています 。
実際には手塚治虫氏のポケットマネーで制作されたとのことです。
このように、ラジオドラマからの派生形として、絵本、紙芝居、さらにはアニメへと多岐に渡り展開されたことが、本作の長い息遣いと普遍性につながっています。
⇒ やなせたかしと手塚治虫の関係とは?出会いや年齢差・アニメでの接点も紹介
やなせたかしが語った“わかりやすさ”の哲学
やなせたかしさんは、この作品について回顧してこう述べています。
“「やさしいライオン」がなければアンパンマンも絵本化されなかったと思う。…技術的に未熟な欠点を超えて多くの人に愛されてきたことは作者としてはうれしい限りである”
さらに、創作姿勢については次のように語っています:
“まずは誰にでもわかるってことが大切だと僕は思うんです。…僕の絵本は絵もわかりやすいし、お話もわかりやすい”
この“わかりやすさ”へのこだわりは、やなせたかしさん自身が自らの作品を通じて届けたかった普遍的な想いそのものであり、『やさしいライオン』の成功につながる重要な要素でもあったのですね。
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やなせたかし作「やさしいライオン」のあらすじを解説
『やさしいライオン』は、犬のおかあさんに育てられたライオン・ブルブルとその母との絆を描いた物語です。
ここでは、そのあらすじをご紹介していきます。
犬に育てられたライオン・ブルブル
『やさしいライオン』の主人公は、母親を亡くした孤児のライオン。
寒さに震えるその子は「ブルブル」と名付けられました。そんなブルブルを育てたのは、赤ん坊を亡くしたふくよかな雌犬、「ムクムク」です。
ムクムクはブルブルに優しくおんぶをしたり、子守歌を歌ったり、「お手」「待て」といった芸を教えたりしながら、母親代わりとして温かく育てます。
「やさしさ」を持つがゆえの孤独
成長したブルブルは見た目は立派なライオンになりましたが、本当の意味での居場所を持てずにいました。
かつての育ての母、ムクムクとの日々はかけがえのないものでしたが、自分が犬ではなく、あくまでライオンであるという事実にブルブルは直面します。
その時、自分と育ての母との“見た目の違い”に気付き、「自分がライオンだ」と青ざめたという描写は、アイデンティティの葛藤を象徴しています。
この部分には、「やさしさを持つがゆえに、自分らしさとのギャップを抱える孤独」が鮮明に示されており、読者にも深い共感を呼び起こします。
会いたい一心で旅立つブルブル
やがてブルブルは、ムクムクと引き離されて都会の動物園へ送られ、さらにサーカスで人気者になります。
それでも、心にいつもムクムクの歌声が響いていました。
ある夜、どこからかムクムクの子守歌が聞こえてきたように感じたブルブルは、動物園の檻を破って外へ駆け出します。
その後、ブルブルはとうとう雪の丘で年老いたムクムクと再会。
しかし警官隊の銃は二人を狙い、切ない展開へと続いていきます…。
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やさしいライオンのラストはどうなる?
物語のクライマックスとなるラストシーンは、『やさしいライオン』の中でも、とくに心に残る場面です。
絵本版とアニメ版では少しずつ描き方が異なり、それぞれに特有の余韻とメッセージが込められています。
絵本版のラスト:余韻を残す静かな結末
雪の丘で、ようやくブルブル(ライオン)は育ての母ムクムク(犬)と再会します。
「おかあさん、今度こそ離れないで一緒に暮らそうね」
──そう抱きしめた瞬間、無情にも銃声が響き、ふたりは撃たれてしまいます。
そして物語の最後には、足跡が途中で途切れ、やがて「金色のライオンが年老いた犬を背に、夜空を駆けていった」という伝説が語られるのです。
直接的な表現を避けながらも、静かな切なさと温かい余韻を残して、絵本は幕を閉じます。
アニメ版のラスト:雪の中の衝撃的な別れ
1970年に公開されたアニメ版でも、大きな流れは同じですが、映像と音楽が加わることでよりドラマチックに描かれています。
雪の中でブルブルがムクムクを見つけ出すまでの緊張感、再会の喜び、そして銃声に倒れる悲劇。
その一連の場面が、映像として強く心に刻まれます。
最後は、満月に照らされながら“金色のライオンが犬を背に空を飛ぶ”幻想的なシーンで締めくくられ、観る人の胸に焼きつきます。
「愛と死」を通じて伝えたメッセージ
絵本とアニメ、どちらの結末も共通しているのは、「愛と死」という普遍的なテーマです。
異なる種を超えて結ばれた親子の絆と、その絆を守ろうとするブルブルの姿。そして、その思いが人間の社会によって断たれてしまう切なさ。
アニメのラストもまた、ただ悲しいだけでなく「愛は永遠に続く」という希望を感じさせる余韻を残しました。
やなせたかしさんが大切にしてきた“やさしさ”と“わかりやすさ”が、この結末の中に色濃く息づいているようです。
以上、今回は『やさしいライオン』の作品紹介と誕生の背景、あらすじやラストシーンについてお伝えしました。
やなせたかしさんの原点がつまった物語は、朝ドラ『あんぱん』で描かれるテーマとも重なり、今あらためて注目を集めています。ちょっと切ないけれど、やさしさの強さを感じさせてくれるお話ですね。
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